【論文解説】靴下を履いたまま寝ると睡眠の質が下がる!は迷信!?
冷え性などの対策で靴下を履いて寝たい時がありますが、靴下を履いたままだと入眠を妨げる、という記事をよく見ますよね。
しかし、本当に靴下は入眠を妨げるのでしょうか?実際に研究や論文に基づいた記事は多くはありません。
そこでこの記事では、靴下を履いて入眠した際の影響について研究した論文を、睡眠健康指導士である筆者が、出来るだけ分かりやすく解説します。
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なぜ、靴下を履いたまま寝るのは良くないと言われているのか
夜、人は寝るときに手や足から放熱し、体の深部体温を下げることによって眠気が高まり入眠すると言われています。
そして、靴下を履いたまま寝てしまうと、体内の熱が適切に放出できず深部体温が下がらないことでスムーズな入眠が出来ない、というのが通説です。
それでは、この「靴下が熱の放出を妨げる → 深部体温が下がらない → スムーズな入眠が出来ない」という前提をふまえて、実際に行われた研究とその論文を見ていきましょう。
論文1. 涼しい環境での靴下の睡眠への影響
ここからは、実際に行われた靴下と睡眠に関する研究とその結果を簡潔に紹介していきます。
まず最初に紹介するのは「Effects of feet warming using bed socks on sleep quality and thermoregulatory responses in a cool environment」(涼しい環境での靴下による足の加温が睡眠の質と体温調節反応に及ぼす影響)という2018年にソウル国立大学の研究所から公開された論文です。
この研究では、20~23歳の6名の若い男性に実験に参加してもらい、気温23℃の環境下で足の加温あり・なしによる7時間の睡眠を計測しました。
具体的には、睡眠中に入眠潜時、睡眠効率、総睡眠時間、覚醒回数、入眠後覚醒、平均覚醒長、運動指数、断片化指数、心拍数、直腸温、皮膚温などのデータを計測。加えて、目覚めた際に睡眠の質に関するアンケートを取っています。
実験結果
The results showed that sleep-onset latency was on average 7.5 min shorter, total sleep time was 32 min longer, the number of awakenings was 7.5 times smaller, and sleep efficiency was 7.6% higher for those wearing feet-warming bed socks during a 7-h sleep than control (no bed socks) (all P < 0.05)
翻訳すると、靴下の着用の有無で下記の違いがあったと書かれています。
- 入眠するまでにかかる時間が平均7.5分短い
- 総睡眠時間が32分長い
- 覚醒回数が7.5回少ない
- 睡眠効率が7.6%高い
また、皮膚温や直腸温(深部体温)、アンケートによる主観的な評価については、靴下の着用の有無で差は見られませんでした。
この実験を見ると、少なくとも涼しい環境下においては、靴下が入眠を阻害する、と一概には言えず、むしろ入眠や睡眠に良い影響があることが分かります。
この論文では、靴下が睡眠に良い影響を与えた理由として、長期間に渡る皮膚温の上昇による下記の3点を挙げています。
- 高い遠位-近位部皮膚温度勾配
- 皮膚の血管拡張作用
- 血流量の増加
遠位-近位部皮膚温度勾配とは、大まかに解説すると、体の中心に近い近位部位(お腹)と中心から遠い遠位部位(足)の温度の差のことを指します。この温度差が高ければ高いほど、スムーズな入眠が出来ると言われています。
つまり、足を温めることによって高くなった足の温度と、血管拡張による熱放出で低くなった深部体温の差が大きくなったことが入眠に良い影響を与えた、ということですね。
また、血流の増加と睡眠の関係については次の論文で詳しく見ていきましょう。
論文2. 血管拡張と睡眠の関連性
最初に紹介した論文の実験では靴下を履くことによる睡眠への良い影響を観測した研究の論文を紹介しました。
そして、良い影響を与える理由に靴下着用による足の血管の拡張・血流の増加とありましたが、なぜそれらが睡眠に良い影響を与えるのでしょうか。
次に紹介するのは、そんな足の血管や血流と睡眠との関連性についてまとめた、「Functional link between distal vasodilation and sleep-onset latency?」(遠位血管拡張と睡眠導入潜時の機能的な関連性とは?)という論文です。
細かい実験内容は省きますが、この論文の実験では、健康な成人男性20名に対して行った観測から血管の拡張が睡眠導入の促進に関係があることが発見されました。では、その関係を簡単に説明したいと思います。
人の体内では、血流に乗せて熱が移動しています。そして、血管が拡張すると、血流が増えるため、より熱を運びやすくなります。熱が体の中心から足にたくさん運ばれることで深部体温が下がり、快適な入眠に繋がる、ということになのですね。
靴下の着用は下記のようなステップで深部体温を下げ、入眠・睡眠の質を上げる、ということになります。
1. 皮膚温の上昇
2. 血管の拡張
3. 血流の増加
4. 血流に運ばれて熱の放出率アップ
5. 深部体温の低下 (= 入眠のシグナル)
6. よりスムーズな入眠・睡眠 (平均で入眠が7.5分速く、睡眠効率が7.6%)
ここまでで、靴下が睡眠に良い影響があるということが分かりました。筆者としては、「靴下による放熱の阻害」はあれど、皮膚温の上昇や血管の拡張からくるメリットが多いため、靴下着用によって睡眠に良い影響が見られたのではと考えています。
寝るときにおすすめな靴下の種類3選!
靴下が睡眠に良い影響がある可能性があることが分かりましたが、どんな靴下でも良いわけではありません。
ここからは実際に靴下を履いて寝るときに、どんな靴下が良いか、おすすめの素材を紹介していきます。
ベッドソックスは就寝専用の靴下であり、血流を阻害しないゆったりな作りになっていたりと、睡眠時に最適な作りになっています。
睡眠にこだわりのある方は、是非一度試してみると良いでしょう。
繊維がとても細かく、体温のコントロールを適切に行う事ができます。
湿気がこもらず、熱の排出もスムーズに行うことが出来ます。
主に3つの素材を紹介しました。これらの靴下がなく手元にある靴下で代用したいという方は、「きつくない」「熱の排出がしやすい」の2点に注意して就寝時の靴下を選ぶとよいでしょう。
引用: https://www.mattressnextday.co.uk/advice/sleep-in-socks
イギリスの寝具メーカー「MattressNextDay」が午前7時から午後11時まで着用した靴下数足の菌を分析した結果、半分の靴下から緑膿菌が発見されました。
緑膿菌は気道や尿道に炎症が生じる可能性がある菌で、特に糖尿病や新生児など免疫力が低い人は感染のリスクが高まると言われています。
靴下を履いて寝る際は、新しい靴下を履くようにしましょう!
寝るときに靴下を履かない方が良い人もいる?
ここまで、靴下が睡眠に良い影響を与えることを論文を通して見てまいりましたが、ここからは逆にどういう人やどういう時は靴下を履かないで寝たほうが良いのか、について解説していきたいと思います。
1. △ 幼児や未成年
多くの研究は成人に対して行われているため、幼児や未成年についてはデータを元に靴下を履いて寝た方が良いかを述べる事はできません。
2. × 足のむくみがある方
環器系の疾患や足のむくみなど、靴下が足の血流を制限する可能性がある場合は、靴下を履いたまま寝るのはおすすめ出来ません。
上記のような懸念がある方は、靴下を着用するべきか否かを自分で決めずに、必ず医師に相談するようにしましょう。
3. × 足が蒸れて寝づらい時
夏場など、靴下を履くことで足が蒸れると、逆に入眠を阻害する可能性があります。
足が蒸れるのに無理やり靴下を履くことは逆効果になりますので、そのような場合は素直に素足で寝るのが良いでしょう。
まとめ
この記事では、実際に行われた研究の論文をもとに、本当に靴下を履いたまま寝てはだめなのか、という点を検証してまいりました。
そして、涼しい環境下での靴下の着用に関する実験や、血管拡張と睡眠の質に関する論文から、靴下を履いたまま寝ることで良い効果もある、ということが分かりました。
もちろん今回紹介した研究の条件は限定的(涼しい環境、成人男性のみ等)なため、それぞれの研究結果が全ての人や環境に当てはまるわけではないことにご注意頂き、自分に合うかどうかを確認して頂けると幸いです。
また、快適な睡眠には靴下での体温調節だけではなく、適切な気温や、睡眠前の習慣、そして体を約8時間あずけるマットレスがとても大事になります。
予算や条件別のおすすめマットレスについては、寝具指導士である筆者が100種類以上のマットレスを精査して下記の記事にまとめていますので、是非ご覧下さい。
引用
- Ko, Y., & Lee, J. Y. (2018). Effects of feet warming using bed socks on sleep quality and thermoregulatory responses in a cool environment. Journal of physiological anthropology, 37(1), 13. https://doi.org/10.1186/s40101-018-0172-z
- Kräuchi, K., Cajochen, C., Werth, E., & Wirz-Justice, A. (2000). Functional link between distal vasodilation and sleep-onset latency?. American journal of physiology. Regulatory, integrative and comparative physiology, 278(3), R741–R748. https://doi.org/10.1152/ajpregu.2000.278.3.R741
- Beal, M. (2023, March 21). A Swab Study: Why You Should Always Change Your Socks Before Going To Bed. Retrieved May 21, 2023, from https://www.mattressnextday.co.uk/advice/sleep-in-socks